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認知症の診断・治療について
はじめに
本邦における認知症患者数は増加の一途を辿っており、毎日のように新聞やニュースでも認知症関連の話題を見かけます。社会保障費や介護など医療の問題だけでなく、認知症者の運転技能、金融資産管理能力、犯罪などの責任能力を含めた大きな社会問題となっています。日本は世界で最も高齢化率が高く(29.1%、2023年時点)、既に「超高齢社会」に突入しています。さらに、認知症有病者数は65歳以上の20%にあたる約700万人,認知症予備軍とされる軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の方も約500万人と推計されています。医療機関だけでなく、一般企業や日常生活においても認知機能低下者との関わりが今後ますます増加することが予測されます。
認知症の診断基準
認知症の定義とは「一度正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障を来すようになった状態」です。一方で、MCIは認知機能低下を認めるが社会生活は自立し、認知症ほど支障は来たしていない状態です。認知症と聞くと「もの忘れ、記憶障害」というイメージがあると思いますが、前頭側頭葉変性症(FTLD)や初期のレビー小体病(DLB)など記憶障害がほとんど目立たない認知症の存在もあり、今日では記憶障害はあくまで1つの認知機能領域として注意障害や実行機能障害、視空間認知障害、言語障害と同等に扱われ認知症診断に必須ではなくなっています。
アルツハイマー型認知症の診断・治療
アルツハイマー型認知症は全認知症の約60%を占めるとされ、最も頻度の高い認知症です。症状としては初期より短期記憶障害や見当識障害(日付や場所などの認識)が認められます。診断は問診で得られた情報の他に認知機能検査や、血液検査、頭部MRIやSPECTなどの脳画像検査を組み合わせて総合的におこなわれます。近年の研究からはアルツハイマー型認知症発症の約20年前から脳内にアミロイドβという異常蛋白の蓄積が始まり、次いでタウ蛋白が蓄積、そして神経機能障害を引き起こし、脳の血流低下や海馬の萎縮が出現するという病態の経過が明らかになって来ています。さらに、アミロイドPETという画像検査を用いて脳内のアミロイドβの蓄積を評価することが出来るようになり、アルツハイマー型認知症の早期診断や早期治療介入が可能になりました。
新薬レカネマブと認知症予防について
2023年9月、アルツハイマー型認知症の新薬レカネマブが承認されました。アルツハイマー型認知症の主な原因はアミロイドβが脳内に蓄積するためと考えられています。レカネマブは、このアミロイドβの蓄積を除去する薬剤です。レカネマブ18ヶ月の投与で日常生活の質の低下が27%抑制(半年程度の進行抑制に相当)されたと報告されましたが、残念ながら完治させるほどの効果は認めませんでした。レカネマブの次にも複数の新薬候補が既に出て来ており治験がおこなわれています。進行を遅らせるだけではなく、認知症を治す薬の完成が待ち望まれます。
根本的な治療法が確立していない現状では認知症の予防が重要になってきますが、認知症の危険因子としては難聴、喫煙、抑うつ、社会的孤立、糖尿病、高血圧、肥満、過度の飲酒、運動不足などが挙げられています1)。これらの項目に気をつけて日々健康な生活を送りましょう。少しでも気になる症状がありましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
1) Livingston, Gill et al., Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission, The Lancet.